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白山火山の地質と形成史-白山巡検を終えて2018.9-

2018.09.12 【地質調査観光等

白山は、石川県と岐阜県にまたがる山体であり、現在では標高2,702mの御前ヶ峰を最高峰とします。白山火山は、約30~40万年前に誕生したといわれ、地質時代的には比較的新しい活動によって誕生しました。白山火山直下の基盤岩は、ジュラ紀から白亜紀(1億7千年前から1億年前)の手取層群の砂岩・泥岩・礫岩、白亜紀から古第三紀初期(8,500万年前から6000万円前)の濃尾流紋岩からなります。つまり、白山はこれらの古い地層を貫入したり、火砕流が古い地層を被覆するなどして形成されました。以下に、白山火山の基盤と白山火山の形成について整理します。

(1)白山火山の基盤

1)手取層群

日本列島の骨格を形成している地層に飛騨変成岩類があります。この飛騨変成岩類は、岐阜県、富山県、石川県などに分布する地層で片麻岩類などからなる日本最古の地層です。この片麻岩類は、現在の中国や朝鮮半島の一部となった中朝地塊と揚子地塊が衝突する際にその間にあった堆積物が変成作用を受けて誕生しました。この変成岩の形成は、2億4千万年前後からといわれています。

手取層群は、飛騨変成岩共に2つの地塊に挟まれた地域で形成されました。手取層群はの中にはアンモナイトなどの化石も含む海成の堆積物も存在しますが、大半は河川、湿地、陸成の堆積物からなります。手取層群の起源は、飛騨変成岩から供給された堆積物を主体とします。また、この時代には、大陸東側プレートの移動によって海側から堆積物が次々と付け加えられ(付加体と呼ばれる)、陸地が誕生する。この付加体からも手取層群の土砂供給があったと考えられています。

ちなみに、手取層群の桑島層などでは、植物化石の他、恐竜化石なども算出する日本でも有名な地層です。

次の写真は、巡検の際に登山道でみられた手取層群の地層(礫)の一部です。

大小様々な円礫を含み、特に白色で石英質の礫が目立ちます。砂防新道などで見られる特徴的な地層です。含まれている礫は、日本最古の地層より古い中国大陸起源のものです。登山中、そんな礫を眺めると、とても感慨深いです。砂防新道より登山を始め甚之助避難小屋手前位まで見ることができます。

 

 

 

 


 

この写真は、観光新道の途中で見つけた手取層群の泥質岩(礫)です。この礫の中には、不規則な黒色の模様がみられますが、貝殻及びの周辺にたまった泥などが化石となったものです。この礫は、登山道整備のためにヘリ等で運ばれたものかもしれません。それほど多く確認されたものではありませんので、このような礫を見つけたら貝化石であることを思い出してみてください。

 

2)飛騨流紋岩類

岐阜県南部から白山の北方までに分布する幅40㎞、長さ120㎞程度の範囲に分布する地層です。主に流紋岩やその火砕流によって形成された熔結凝灰岩からなります。この飛騨流紋岩類は、規模が非常に広範囲に分布することなどから、特定の火山から噴出したものではなく、巨大な陥没地形(コールドロン)から発生した堆積物と考えられています。

白山の登山道周辺では、エコーライン付近に見られる白色を帯びた岩石が飛騨流紋岩類に当ります。登山道で見られる飛騨流紋岩類は、流紋岩質火砕岩です。砂防新道の岩石(安山岩溶岩)と比べ登山道自体が白色を帯び、斜面自体が緩斜面を形成しているのも岩石自体の浸食に対する抵抗性などを反映しているのかもしれません。

HP「岐阜の地学・よもやばなし」より引用

登山道エコーライン付近の地質

白山自然保護センター「白山の自然誌27」より

(2)白山火山の形成

次に、白山火山について整理します。

白山火山は主に3つの成層火山からなり、加賀室火山(31~32万年前)、古白山火山(11~16万年前)、新白山火山(2~4万年前)からなるとされています。今回は、古白山火山と新白山火山について記載します。これらの2つの形成期の間には、かなり大規模な浸食期があると考えられています。白山自然保護研究センター研究報告等を基に白山火山形成期を整理します。

1)古白山火山

古白山火山の山体の体積は、15㎞3と推定され、新白山火山の体積1㎞3と比べると非常に大きな山体であったと考えられています。古白山火山の中心は、現在の御前峰より北方約3㎞程度にありました。現在では古白山火山の山体が確認できず、中ノ川の源流部付近が中心付近に当ります。つまり、古白山火山は、その形状が分からなくなるほど、激しい浸食を受けました。但し、古白山火山から供給された噴出物は、大汝峰や岩間尾根、北弥陀ヶ原付近や登山道であれば観光新道付近に分布しています。

なお、古白山火山は、大別すると3つの活動期があったといわれています。こちらについては、石川県白山自然保護センター研究報告第26集に添付されていました図を引用いたしました。

観光新道付近で見られる古白山噴出物(赤丸付近に安山岩溶岩)

 

 

 

 

 

 

 

 

古白山火山噴出物(観光新道、仙人窟、標高1800m)

白山自然保護センター研究報告26集より

 

 

 

2)新白山火山

次に、2~4万年前に活動した新白山火山ですが、こちらは4つの活動があったとされています。

Ⅰ期:成層火山の形成期

Ⅱ期:山頂崩壊と岩屑流の発生

Ⅲ期:崩壊凹地からの溶岩流流出とその後の小成層火山の形成

さらに、

翠ヶ池期:山頂火山群の形成

 

Ⅰ期目が、成層火山の形成期であり、御前ヶ峰を含み、室堂平、南竜ヶ馬場さらに南の柳谷川付近にまで達しています。

Ⅱ期目は、山頂の崩壊によって岩屑流発生し、岐阜県の現在の大白川ダム付近、さらに東の大白川沿いにかけて堆積しました。この山体崩壊によって、山頂付近には馬蹄形の凹地が形成されました。現在の翠ヶ池池も含む範囲に崩壊地形が残されています。

Ⅲ期目は、この山頂崩壊によって形成された凹地から溶岩流が東方へ流下し、前述の大白川ダム付近にまで達しました。

 

そして、最後の翠ヶ池期では、皆さんが登山の目的地とすることが多い御前ヶ峰や剣ヶ峰及び大汝峰の間に生じた小火山群からの噴火で熱雲が発生し、東や西の山腹を流下したそうです。

 

 

白山は、このようなダイナミックな活動によって形成された山なのです。風景や高山植物も素晴らしいですが、地質や地形に着目するのも非常に面白いものです。

余談ですが、今回の巡検では、御前ヶ峰山頂付近で「百名山一筆書き」などでご活躍のアドベンチャーレーサーの田中陽希さんにお会いすることができました。田中さんには、これからもさらにご活躍されることをお祈りしております。

田中陽希さん

引用文献

石川県白山自然保護センター発行 白山の自然誌27 白山の生いたち

石川県白山自然保護センター発行 第12集 白山火山の地質と形成史

石川県白山自然保護センター発行 第26集 古白山火山の溶岩のK-Ar年代

石川県白山自然保護センター発行 第31集 白山山頂部における新白山火山本質岩塊の岩石記載学的特徴

ホームページ「岐阜の地学・よもやばなし」

 

 

万代エンジニアリング(株)は、北陸地方、関東地方、中部地方を中心として地質調査、斜面設計、施設点検などを行っている会社です。

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