万代ブログ

内灘町液状化被害状況

2024.02.25 【地質調査建設コンサルタント能登半島地震関連

内灘町の液状化調査結果

令和6年1月1日16時10分、石川県能登地方を震源とするマグニチュード(M)7.6の「令和6年能登半島地震」が発生し、震源から約100㎞離れた内灘町では震度5弱を記録した。この地震によって、町の東側地域では、液状化によって甚大な被害が発生した。なお、弊社は内灘町より5㎞程度の距離に位置しており、今後の町の復旧に少しでも利用していただく目的で被害状況の調査を実施した。

1.液状化被害調査結果

現地調査は、令和6年1月19日頃から2月初旬にかけて行った。内灘町で特に被害が大きい地区は、北部で西荒屋、室、宮坂地区、南部では鶴ヶ丘地区である。ちなみに、あまり報道されていないが、北部では隣接するかほく市大崎地区も被害が甚大であった。以下に、地区毎の被害状況の概要を整理する。

(1)室地区

室地区付近の地形は、県道8号松任宇野気線の西側に砂の採土地跡の平坦面があり、県道付近から西部承水路にかけて緩斜面となっている。被災前の斜面の傾斜は、採土地の平坦面から県道8号までが8%、県道から西部承水路付近の人家立地箇所までが3%、人家立地箇所から西部承水路までが20%程度の傾斜となってる。

室地区の液状化は、特に県道8号より東側の干拓地側で甚大な被害が発生している。

県道に沿った東側(干拓地側)では、1m前後の段差が断続的に発生する。その延長は300m程度であり、県道沿いの集落は東側へ側方に移動する(写真-1,2)。この結果、集落の東に位置する西部承水路の護岸は東へ最大10m程度押し出され、承水路が閉塞している箇所も確認された(写真-3)。これらの側方流動の結果、県道から西部承水路の間で延長200m、斜面(傾斜方向)方向に20m程度の範囲で陥没帯のような地形が形成された。

一方、県道8号の西側(砂丘側)では、液状化による被害範囲は県道から西側の10~20m程度の範囲に限られる。この範囲では、斜面の回転運動による家屋の傾倒が目立つ(写真-4)。この範囲より西側の採土地跡では、地形変状はほとんど確認されない(写真-5)。ちなみに、西側の採土跡の平坦面で変状がみられたのは、かほく市側の北部エリアのみに限られた(写真-6)。以下に、室地区液状化変状マップを示す。

P-1

 

 

写真1 県道8号の東側に形成された段差
住宅の手前に段差が発生した。

 

 

 

 

 

写真-2 県道東の段差亀裂
県道より西側を望む

 

 

 

 

 

写真-3 側方流動に伴う護岸の押出
白い家の前で護岸の押出によって承水路が一部閉塞している。

 

 

 

写真-4 県道西側の変状
斜面の回転運動に伴う建物の傾倒状況
右手側の建物は回転し、左側では家屋が谷側へ移動する。

 

 

 

 

 

写真-5 県道の西側の採土地跡

目立った変状は発生していない。噴砂跡もほとんど確認できない。

 

 

 

写真-6 採土地北部にみられた開口亀裂

 

 

 

 

 

 

(2)西荒屋地区

西荒屋北部の地形は、室地区と同様で西側に砂の採土地跡があり、この付近は平坦面が形成される。採土地跡から町道さらに県道8号線にかけては、緩斜面となっている。被災前の地形は、採土地から町道までが、5%程度、町道から県道8号、さらに下方までが1%程度の傾斜となっている。

西荒屋北部では、採土地跡から町道、町道から県道、県道より谷側で液状化の状況が異なっていた。
採土地から町道までの状況は、蛭児神社の参道付近から北部の八幡宮にかけて、南西から北東に複数の段差を伴う亀裂が形成されている(延長400m程度)。これらの段差の比高差は、1m前後である(写真-7)。これらの段差地形とほぼ平行して東側には町道が位置しているが、この町道の砂丘側(西側)では、斜面の押出や地盤の隆起が顕著である。亀裂から町道までの範囲で液状化に伴う側方流動が明瞭であり、その変状範囲は延長400m、斜面方向に幅50~60m程度である。この範囲では、地盤の隆起・押出に伴う家屋の傾倒、道路の傾斜などが著しい(写真-8,9,10)

町道から県道8号松任宇野気線にかけての範囲では、所々で家屋、ブロック塀の変形、亀裂などは確認されたが、西側のような側方流動に伴う地形変状は確認されない(写真-11)。なお、県道の西側(砂丘側)の歩道は、地震動によってアスファルトの大部分が破壊されているのも目立った。

県道の東側では、県道と平行して断続的に段差亀裂が確認され、一部エリアでは東側にある水路へ押出が確認された(写真-12)

以下に、西荒屋北部エリアの液状化変状マップを記す。

 

 

写真-7 複数の段差を生じた亀裂

 

 

 

 

 

 

 

写真-8 町道沿いにみられる斜面の押出

 

 

 

 

 

写真-9 公民館東に発生した圧縮亀裂

舗装が座屈しているのが分かる

 

 

 

 

 

 

写真-10 道路の隆起状況

 

 

 

 

 

 

 

写真-11 町道から県道にかけての状況
噴砂や亀裂などはみられるが、側方流動は確認されない

 

 

 

 

 

写真-12 県道の東側の変状
県道の東側では、一部地域で側方流動によって建物が変形しているのが確認された。

 

 

 

 

 

西荒屋南部地域は、西荒屋小学校周辺を対象とする。

被災前の西荒屋南部地域の地形は、西荒屋小学校付近が砂の採土地跡である。西荒屋小学校の西側にある住宅から小学校にかけては、20%程度、小学校の敷地から学校東の道路までがほぼ平坦、この道路から県道にかけて6%程度、さらに県道から東の水路にかけては1%で傾斜する。

西荒屋小学校の西側では、北部地域のように連続した段差や亀裂は一部に限られ、確認できたのは小学校の校庭西側の延長80m程度の範囲である(写真-13)。本地域では、全体的に変状の規則性が少ない印象を受ける。但し、西荒屋小学校の周辺では、地盤の沈降傾向がみられた(写真-14,15)。また、本地域の最大の変状としては、県道8号線付近で西側斜面の押出や隆起が顕著であり、その延長は約300m程度にも達した。テレビなどでも頻繁に放送されいた変状は、この県道付近の隆起状況を撮影したものであり、県道が干拓地側に10°程度で傾斜している箇所もみられた(写真-16)

県道より東側については所々で亀裂や家屋の変状などがみられるが、側方流動はほとんどないものと思われる。但し、東側の水路沿いの一部地域では、0.4~1m程度の側方変位が確認された(写真-17,18)。以下に、西荒屋南地区液状化変状マップを記す。

 

 

写真-13 西荒屋小学校西側で発生した段差を伴う亀裂

 

 

 

 

 

写真-14 小学校西側地域の段差及び沈下状況

 

 

 

 

 

 

写真-15 小学校西側から続く溝状の陥没地形

 

 

 

 

 

 

 

写真-16 地盤の隆起箇所
地盤の隆起により信号機の高さに見える。

 

 

 

 

 

 

写真-17 県道東側の変状
県道の東側では、液状化による被害は少ないものの、一部箇所では側方流動が確認される。写真の箇所では、小屋が東側へ40㎝以上移動し、水路の上を覆う。

 

 

 

 

写真-18 県道東側地域の側方流動

斜面の押出によって水路が変形する。

 

 

 

 

(3)宮坂地区

宮坂地区は、砂丘に近接した西部が砂の採土地跡の平坦面であり、採土地跡から県道さらに東の埋立地に向かって傾斜する。被災前の傾斜は、採土地の平坦地から黒船神社付近までが2%、黒船神社から町道までが3%、町道から県道8号線を超えて埋立地までがほぼ水平である。

宮坂地区では、地区の西側に位置する黒船神社や蓮徳寺付近から南西及び北東方向に断続的な亀裂や段差が確認され(写真-19)、その延長は300m程度である。この亀裂から町道にかけては側方流動がみられ、特に町道付近では西側緩斜面の押出や隆起が顕著であった(写真-20)。このような変状により、1階の駐車場に停車していた車が地盤と車庫の天井に挟まれているような光景も見られた。

町道から県道8号線にかけては、西荒屋北部と同様に局部的な亀裂や一部の家屋の変状、県道西側歩道の破損などがみられるが、液状化に伴う顕著な側方流動は確認されない。

県道から東側は、かつての埋立によって整備された平坦地(埋立地)である。この平坦地付近では、多少の亀裂やブロック塀の傾倒、噴砂跡などはみられるものの、大きな地盤変位は確認されない。以下に、宮坂地区液状化変状マップを記す。

 

写真-19 西側に発生した亀裂状況

 

 

 

 

 

 

 

 

写真-20 町道付近の隆起状況

 

 

 

 

 

 

(4)鶴ヶ丘地区

鶴ヶ丘地区では内灘総合グラウンドを挟み、北東と南西のエリアに被害が集中している。この付近は、かつての砂丘尻付近から潟にかけての緩斜面地域に当たる。北東部では、県道を挟み幅70m程度がほぼ平坦面、そこから住宅地の東端までが1%程度で東に傾斜する。

北東部では内灘中学校の東側からスーパー「アルビス」の駐車場にかけて断続的で段差の少ない亀裂が確認された(P-21)。その延長は350m程度である。北東部エリアでは、アルビスの駐車場から東側150m付近までで液状化被害が目立ち、その範囲を超える東側では変状はほとんど見られない。なお、液状化による地盤の変状範囲は内灘総合グラウンド付近で幅40m程度、アルビス付近で150m程度に限られた。北東部では、液状化による家屋の傾倒はみられるが、側方流動は少ないものと思われる。

内灘町総合グラウンドの南西部では、西荒屋や室地域などとは異なり、連続的な段差を伴う亀裂は少なく、断続的かつ不規則な形状のものが目立った(写真-22,23)。液状化に伴う側方流動としては、限られた範囲で発生し、南西部では延長80m、斜面長(傾斜方向の幅)80m程度である。

両エリアについては、地震後褐色の湧水がみられ、地震後1ヶ月が経過した時点でも確認されている(写真-24)。以下に、鶴ヶ丘地区液状化変状マップを記す。

 

 

写真-21 スーパーマーケット駐車場に発生した亀裂跡(補修済み)

 

 

 

 

 

 

 

写真-22 液状化によって傾倒する家屋

隣接する家屋が左右に傾倒する。

 

 

 

 

 

写真-23 公園に発生した段差地形

 

 

 

 

 

 

 

 

写真-24 地震後継続して湧出する湧水

 

 

 

 

(5)かほく市大崎地区

大崎地区は、西に砂の採土地跡、採土地跡から西部承水路にかけて緩く傾斜する。被災前の斜面の傾斜は、採土地跡から県道8号の下方までが5%、さらに農道までが1%程度となっている。
かほく市大崎地区での変状は、南部の専信寺付近から北部の榊原神社やさらにその北部の市道付近いかけて段差を伴う亀裂が断続的に確認された(P-25,26)。その延長は500m程度に達する。但し、西荒屋地区北部に比べると段差の比高差は少なく、最大50㎝程度であった。大崎地区の被害は、県道8号松任宇野気線付近付近が特に甚大であり、斜面の押出や隆起による地盤や家屋の傾倒、倒壊が目立つ(P-27,28)。

県道からさらに西側の河北潟周辺広域農道にかけては、連続的な亀裂や斜面の押出、隆起は少ないものの、変状は多く確認された。

 

 

写真-25 段差を伴う亀裂状況

亀裂は榊原神社方向へ続く

 

 

 

 

 

 

 

写真-26 段差を伴う亀裂状況
液状化に伴う神社のブロック積擁壁の破損

 

 

 

 

 

 

写真-27 県道8号付近の側方流動に伴う隆起状況

 

 

 

 

 

 

写真-28 県道8号付近の隆起に伴う周辺家屋の傾倒
道路も隆起しており、写真右側から左側へ傾斜しているのが分かる。

 

 

 

 

 

2.今後の弊社の取り組みについて

内灘町で発生した液状化は、町の東部の河北潟干拓地側で発生した。但し、町の東部地域でも液状化による家屋の被害を免れた又は被害が軽微な地域も存在する。

弊社では、今後も内灘町の液状化被害について、調査結果を整理すると共に液状化が発生した地域と被害を免れた地域の違いについて、地盤に着目して検討していく予定である。

甚大な被害を被った奥能登地域、液状化被害を被った内灘町やかほく市の復興に少しでも貢献できるよう、取り組んでいく所存である。

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