2018.03.09 【建設コンサルタント】
地すべり抑止のための少し変わったアンカー工の導入事例
道路を走行していると写真のような井桁擁壁を目撃しました。
道路は若干隆起し、側溝は押しつぶされて断面が狭くなっていました。また、井桁の前面の傾斜は一様でなく、孕み出しがみられました。この斜面は、地すべりを発生させているようです。
後日、この斜面を通りがかった時には、対策工事が行われていました。通常、斜面にPC鋼より線などを地中に設置し、大きな緊張力をかける(数百kN/本(数十t/本))アンカー工を導入する場合は、剛性の高い地盤に設置することが多いものです。このようなコンクリートブロックを単に組み合わせた構造物にアンカーを設置すると井桁擁壁が壊れてしまうおそれもあるため、通常は設置することがほとんどありません。
事例1:石積擁壁にアンカー工導入事例
そこで、アンカー工の材料のメーカーに「井桁などの構造物にアンカー工を導入する事例などあるのでしょうか」と問い合わせしてみました。
メーカの回答は、「井桁擁壁への施工事例はわかりませんが、石積擁壁やフトン篭に打設した事例はあります」とのことで、次のような写真を提供いただきました。
上の事例1のような箇所は、弊社でも計画したことがありますが、さすがに2枚目のような金網に栗石を入れて階段状にしたフトン篭にアンカーを設置する案は、想像したこともありませんでした。2枚目の事例では、アンカーに荷重をかけていくと、フトン篭が変形しながらなじむため、問題がなのでしょう。但し、その場合には、次の写真のように不陸調整のためにモルタル吹付などによる斜面整形が必要となります。次の写真の例は、ざぶとん枠工という工法の例です。
1年後、同じ斜面に向かってみたところ、工事が無事に完了していました。この斜面も井桁擁壁の向きが場所によって異なっていること、井桁擁壁の不陸が大きいことなどから、ざぶとん枠を併用しています。
工事を行った業者(中部地下開発㈱の現場代理人)さんへ聞き取り調査をしてみました。
この工事は、どんな点が大変だったのでしょうか?
1)井桁擁壁の背面に幅1m程度の栗石が入っているため、アンカー外周部に充填するセメントミルクが栗石内に流れ出さないよう、栗石区間に塩ビ管を挿入しました。通常より余分な工程が必要でした。
2)アンカーの水平間隔と井桁の縦に配置されるコンクリートの控え材の間隔が異なること、井桁の向きがアンカー打設方向と直交していないことから、アンカーの水平間隔の微調整が必要でした。
3)アンカーを打設する斜面の背後には、地すべり鋼管杭も打設されているため、鋼管杭をかわすために打設方向を微修正する必要がありました。
お話を伺った後、井桁擁壁の上部を確認しました。筆者の感想としては、次の通りでした。
1)井桁擁壁の縦配置となる控え材が、ざぶとん枠の様々な位置になること、井桁の向きが場所によって異なることから、ざぶとん枠の設置工事もかなり慎重にやらなければならなかったことでしょう。
2)背面の栗石は、直径が20cm位の花崗岩からなり、セメントミルクの流失防止だけでなく、削孔も大変だった(硬岩)ことが想定される。
3)アンカー1本毎にリボンの付いた方向杭を設置し、背後の鋼管杭に当らないよう配慮されたのでしょう。
4)井桁擁壁がたわんでいることから、アンカーに大きな荷重をかける過程で井桁も変形しながら斜面になじんでいったのでしょう。
最後に、施工されました中部地下開発㈱の担当者様、貴重なお話を伺うことができました。ここに記し感謝いたします。
弊社では、北陸地方(石川県、富山県、福井県、新潟県)の他、関東地方、中部地方などで地すべり対策設計、落石対策工設計、法面設計の他、地質調査、斜面点検、老朽化調査なども行っております。お気軽にご相談ください。
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